SPnet 開業偏



・1ポストの宿直・日直業務の日当 -断続的労働とその賃金(2022.08.21改訂)





施設警備に「1ポストの宿直・日直業務」といものがあります。
市庁舎や病院、介護施設で夜間や休日の巡回,電話・来訪者対応対応,郵便物受け取り,緊急対応を行うものです。
通常勤務時間は、12時間,16時間,24時間の三種。

この業務は「1日に8時間以上の労働」なので、労働基準法に反します。
そのために、労働基準監督署から「断続的労働の適用除外許可」をもらって「労働基準法の労働時間の適用」を除外してもらいます。

これらの許可がないと労働基準法違反,最低賃金法違反となり罰則が適用されます。
また、この場合、労働者は通常の賃金を請求できます。

ここでは、どのような業務が断続的労働に該るのか、その賃金はどのように計算するのかについて説明します。

なお、市町村の公共調達ではこの計算で出た賃金よりはるかに安い価格で落札されています。
小さい警備会社のほとんどはこの許可を得ずに警備員に違法労働を行わせています。

しかし、警備員は文句をいいません。
「文句を言えばクビになる」からです。60歳超え70歳超えの警備員にとっては「仕事をもらえるだけでありがたい」のです。
発注側の市町村は「違法労働を知っていて知らぬふり」、「受注者の違法労働にはアンタッチャブル」。
受注者の違法労働を正せば、落札価格が上がるからです。
労働基準監督署は「労働者の申告がなければ」動きません。

「おしゃべりフミオさん」は「賃金引き上げ。最低賃金1500円を目指します」
最低賃金をどれだけ高くしても「その賃金が支払われなければ」意味がありません。
現実の労働実態を把握してほしいものです。


1ポストの宿直日直業務とは
労働基準法の原則-1日8時間・週48時間・週1日の休日
1ボストの宿日直業務に休憩は存在しない
労働基準法の原則が適用されない断続的労働
法律の定め
断続的労働の要件(労働省通達)
労働基準法の例外となるには個別に労働基準局の許可が必要
断続的労働の賃金計算方法
最低賃金減額にも許可が必要

    

1.1ポストの宿直日直業務とは


工場や官公庁の業務の終了後の夜間や業務をやっていない休日に、
警備員が常駐して、定期的な巡回、来訪者・電話対応、郵便物の受け取り、事件・事故発生時の緊急対応をするものです。

平日なら17時~翌8時30分の15.5時間勤務。休日なら8時30分~翌8時30分の24時間勤務です。
複数名で行われる場合もありますが、小さい施設では1ポストです。
今回は1ポストの場合を取り上げます。

この勤務で警備員の最低日当はいくらになるでしょうか?

もちろん、それは労働基準法に適合するものです。

次の勤務を例とします。

① 平日勤務・1名
・17時~翌8時30分 ( 拘束15.5時間 )
・17時30分~18時30分:閉館施錠業務
・22時~22時30分:施設内巡回
・23時~翌5時30分:仮眠
・6時~6時30分:施設内巡回
・7時30分~8時:開館・開錠業務

② 休日勤務・1名
・8時30分~翌8時30分 ( 拘束24時間 )
・10時~10時30分:施設内巡回
・15時~15時30分:施設内巡回
・22時~22時30分:施設内巡回
・23時~翌5時30分:仮眠
・6時~6時30分:施設内巡回

巡回以外は警備室や防災センターに待機して来訪者や電話の対応郵便物の受け取りを行います。
また、ローカルシステム作動時 ( 火災,温度異状,侵入感知なと) には緊急対応を行います。
仮眠はできますが、少なくとも緊急時の対応があるので、完全に自由な睡眠はできません。

※「宿直・日直」とは労働者が通常の業務の後で会社に泊り込んだり、休日に留守番をしたりすることですが、
  ここでは上のような業務を「宿直業務・日直業務」と呼びます。

   ★★01     

2.労働基準法の原則は-1日8時間・週48時間・週1日の休日


労働者には労働基準法(以下 労基法 )が適用されます。

・使用者が労働者を労基法の労働条件より悪い条件で働かせると罰則が適用されます。(労基法117条~)
・使用者と労働者が結んだ労働契約の中で、労基法の定める労働条件より悪い部分は無効となり労基法の労働条件に引き上げられます。
 (労基法13条)

※労基法13条(労働契約)
「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。
  この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。



労基法が定める労働時間,休憩,休日は次の通りです。


a.労働時間

・一週間に40時間以下で一日に8時間以下(労基法32条)

※労基法32条(労働時間)
「  使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
  2.使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」

     

b.休憩


・休憩は労働時間が6時間を超えたら45分間以上、8時間を超えたら60分間以上。
・休憩は労働時間の途中に与えなければならない。
・休憩は労働者が自由に使えるものでなくてはならない。
 (労基法34条)

※労基法34条(休憩)
「  使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、
   八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
 2.前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。
   ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、
   労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。
 3.使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。


(1ボスとの宿日直業務に休憩は存在しない)

1ポストの宿直日直業務の場合、休憩時間中でも不意の来訪者や電話、事件事故発生時の緊急対応をやらなければなりません。
だから休憩時間が与えられていても「それを労働者が完全に自由に利用できる」とは言えません。
仮眠時間についても同じです。

『休憩時間に来訪者や電話対応があったら、適当に休憩時間をずらせてよ。』
『自火報発報なんてまず起こらないからね。万が一発報したときは対応してくださいね。これは大地震が起こったときと同じだよ。』

こんなごまかしは通用しません。

1ポストでは「休憩時間に業務を交代する者がいない」限り休憩は存在しません。
だから、1ポストの宿直日直業務は6時間を超えた時点で労基法違反となります。


c.休日

・休日は一週間に一回以上、または4週間で4日以上(労基法35条)

※労基法35条(休日)
「  使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
  2.前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。」



d.時間外労働・休日勤務

・ただし、例外として労働者の過半数を代表する者との約束で時間外や休日に労働させることができる。( 36協定 ・労基法36条)

※労基法36条(時間外及び休日の労働)
「  使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、
    労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、
    これを行政官庁に届け出た場合においては、
    第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)
    又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、
    その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
    ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。

 2.厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、
   前項の協定で定める労働時間の延長の限度、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、
   労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して基準を定めることができる。

 3.第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、
   当該協定で労働時間の延長を定めるに当たり、当該協定の内容が前項の基準に適合したものとなるようにしなければならない。

 4.行政官庁は、第二項の基準に関し、第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。」


※36協定については → こちら(2019年改正)


e.時間外労働・休日勤務の制限

36協定には上限があります。
その上限は
・原則 → 月に45時間以内 かつ 年に360時間以内
・臨時的な特別の理由があるとき → 月に100時間未満 かつ 2~6カ月平均が 月に80時間以内 かつ 年に6カ月まで かつ 年に720時間以内
※詳しくはこちら


f.余談- 警備員の方へ 「労基法は労働者の生存を守らない」?

使用者は労働者を労基法の定める労働時間を超えて働かせることはできません。
逆にいえば、労働者は労基法の定める労働時間しか働けません。
その時間数を計算してみましょう。

・一年は365日で、(365÷7)週
・一週間に40時間しか働けないから、一年で働けるのは 40時間×(365÷7)週=2085.7時間。
・36協定の時間外労働の上限は 360時間/年。
・この時間外労働は25%の割増賃金となるから、実質的には360時間×1.25=450時間。

これらを合計すると 2535.7時間。
これにあなたの時給をかけたものがあなたの年収の最高額。

警備員の時給は最低賃金ギリギリ。

三重県の警備員の最低賃金は時給902円、東京は1041円 ※2022.08.21現在

だから、三重県の警備員の年収は902円×2535.7時間=228万7202円。
一カ月になおすと 19万600円。

東京なら、年収 1013円×2535.7時間=263万9664円。
月収は 21万9972円。

ボーナスなんかありません。
だから、警備員の月収は最高額で「19万円~22万円」なのです。

しかし、これは「仕事が毎日あった場合のこと」・「残業や休日出勤ができた場合のこと」。
交通警備・イベント警備中心の警備会社では一年に半分くらいしか仕事がありません。
だから、月収が10万円以下でも異常ではないのです。

労基法は「働き過ぎを規制して、労働者の健康を守る」ことはできても「労働者の生存を守る」ことはできません。

「労基法や基準局を口にしたら仕事をやらせてもらえない」

それが警備業界です。働き方改革をやられたら警備員は生きていけないのです。
   ●●      


3.労働基準法の原則が適用されない断続的労働
     

a.断続的労働とは(法律の定め)


「一日に8時間・週に40時間、8時間を超えたら休憩1時間、休日は週に1日」の原則には例外があります。

その例外の一つが断続的労働。
断続的労働に対しては「労働時間,休憩,休日の原則」が外され(労基法41条,施行規則34条)、
最低賃金も異なります(最低賃金法7条4号)。

※労基法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
  一.別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
  二.事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
  三.監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」

※労基法施行規則34条
「法第四十一条第三号 の規定による許可は、従事する労働の態様及び員数について、様式第十四号によつて、所轄労働基準監督署長より、これを受けなければならない。」

様式第14号というのは→→→こちら  

※最低賃金法7条(最低賃金の減額の特例)
「使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、
  当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に
  労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
  一.精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
  二.試の使用期間中の者
  三.職業能力開発促進法 (昭和四十四年法律第六十四号)第二十四条第一項 の認定を受けて行われる職業訓練のうち
    職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であつて厚生労働省令で定めるもの
  四.軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者」


断続的労働とは「仕事をしているときとしていないときが交互に繰り返される」もので、「仕事をしていない時間が長い」ものです。
全体を平均すると労働量・労働負荷が低くなるので労基法の労働時間・休憩・休日の規定が適用除外され、最低賃金も低くなるのです。
上の最低賃金法7条の4号に該ります。


警備員の断続的労働について労働省通達は次のように説明しています。

『いわゆる「宿日直業務の代行」として行われる業務であること。
  すなわち、原則として、常態としてほとんど労働する必要のない勤務で、
  定期的巡視、施錠及び開錠、緊急の文書又は電話の収受、不意の来訪者への対応、非常事態発生の対応等を業務内容とするものであること」

まさしく「ひまだなぁ~。」とあくびをしているような宿直日直業務です。
ショッピングセンターの常駐警備員のように、巡回以外では受付に座ってじっと出入口を監視しているような業務はこれに該りません。


この労働省通達は「どのような宿直日直業務を断続的労働とするかについての判断基準」を定めています。
※警備業者が行う警備業務に係る監視または断続的労働の許可について

これは、労働省が都道府県の労働基準局へ指示した内部的な通達です。
各労働基準局はこの通達の判断基準によって許可を与えます。

この通達は法律ではないので、許可されなかったことを不服として裁判で争うことができます。
もっとも、そんな行政訴訟を起こしてもまず勝ち目はありません。警察庁の「警備業法の解釈・運営基準」と同じです。

それではその判断基準を見ていきましょう。
    

b.断続的労働の要件(労働省通達)


イ.巡視・巡回の内容

①.精神的緊張の大きいものはダメ(次のようなもの)
・広い施設を巡回するもの → コンビナート,空港,遊園地。
  あとで「一巡回は1時間以内」という要件が出てきますが、1時間以内でも広大な場所を巡回するのは精神的肉体的に疲れます。
・その構造上、外部からの侵入を防止することが困難なもの → 遊園地,駐車場,イベント会場など。施錠してある建物はこれに該らないでしょう。
  侵入者がいる可能性が高ければ巡回時の精神的緊張は大きくなります。
・高価な物品が陳列,展示,保管されている場所 → 博物館,美術館,貴金属店,家電量販店などでしょう。
  泥棒が侵入する可能性が高いので巡回の精神的緊張が大きくなります。

②.危険な場所、環境(温度,湿度,騒音,粉塵濃度など)が有害な場所はダメ(次のようなもの)
・放射線被曝の危険がある施設、病原菌を保管している研究所、弾薬庫、稼働中の工場内、
  噴火の可能性が高い火山の山小屋、酷寒の観測所、ジュラシックパークなどでしょう。

③.巡回回数は 6回以内、一巡回の所要時間は1時間以内で合計4時間以内。


ロ.拘束時間

①.12時間以内
②.勤務中の夜間に継続して4時間以上の睡眠ができるときは 16時間以内
→ 平日の宿直がこれに該ります。


ハ.休息期間が必要

・いわゆる「明け休み」です。

①.勤務と勤務の間に10時間以上の休息期間が必要
②.勤務中の夜間に継続して4時間以上の睡眠が与えられるときは8時間以上の休息期間が必要。


ニ.隔日勤務の場合の例外

・1ポストの宿直日直業務を、2名で一日おきに勤務する場合です。

①.勤務中の夜間に継続して4時間以上の睡眠ができる場合は拘束時間は24時間以内。
②.巡回回数は10回以下、一巡回の所要時間は1時間以内で合計6時間以内。
③.勤務と勤務の間に20時間以上の休息期間が必要。


・一日おきなら24勤務を連続させてもよいことになります。


ホ.休日が必要

・休息期間(明け休み)の他に休日が必要です。

①.休日は一カ月に2日以上。その代替要員が確保されていること。
②.休日は休息期間に24時間を加えた継続したものであること。
→「明け休み+休日」にしなければならない。


ハ.勤務場所が一つであること

①.勤務場所が一つでそこに常駐する場合であること。
②.常駐とは一カ月以上勤務する場合であること。

   警備契約期間が一カ月より少ないときはそのすべての期間を勤務する場合であること


ニ.仮眠設備が必要

①夜間に睡眠を与えるときは充分な睡眠ができるような場所と寝具が備えつけられていること

・警備車両の中で仮眠しなさい。机にうつ伏せになって仮眠しなさいというのはダメ。
・冷暖房も必要でしょう。
・寝具は会社が準備しなければならないようですね。
      

c.労働基準監督署の許可が必要


イ.監視又は断続的労働に従事する者に対する適用除外許可

警備員の宿直日直業務が上の要件をすべて満たしても、断続的労働として労基法の適用が除外されるわけではありません。
労基法の適用除外をうけるためには、労働基準監督署へ申請してその許可を取らなければなりません。
これを「監視又は断続的労働に従事する者に対する適用除外許可」といいます。

この許可がない限り、宿直・日直業務には労基法が適用されます。
その結果、使用者は労基法違反の罰則を受け、労働者は労基法通りの賃金を請求できることになります


ロ.その業務についての適用除外許可です

この許可は「その業務について労基法の適用を除外する」という包括的なもので無期限です。
その業務を行う者に対する個別の適用除外許可ではありません。
業務を行う者が変わっても新たに許可を申請する必要はありません。

もちろん、業務内容が変われば許可を取り直さなければなりません。


ハ.労働者の同意は必要か?

その業務に対する適用除外許可なので、その業務に従事する労働者個人の同意は必要ありません。
許可申請手続の添付書類にも「労働者個人の同意」を求めるものは含まれていません。


ニ.認可ではなく許可です

許可とは「一定の要件を満たせば必ず認められるもの」ではありません。
認めるかどうかの裁量が残っているのが許可です。

警備業の認可のように「一定の要件が揃っていれば必ず認められる」というものではありません。

労基法の適用を外すのですから慎重に行うのでしょう。
今までに問題を起こした警備会社にはこの許可がおりないかもしれませんね。

   ●●      

4.断続的労働の賃金計算

この断続的労働に対しては最低賃金を減額することが認められています。
どれだけ減額できるかは、所定労働時間、実作業時間,手待ち時間によって計算されます。


a.労働局の計算方法(こちら)の説明


①所定労働時間,実作業時間,手待ち時間の算出

〇所定労働時間数=A、実作業時間数=B、手待ち時間数=C

・所定労働時間とは拘束時間から休憩時間を差し引いたもの。
  1ポストの場合、休憩や仮眠の交代要員がいない限り休憩は存在しないので 「所定労働時間=拘束時間」
・実作業時間とは巡回などの実働に要する時間の合計。
・手待ち時間とは「所定労働時間-実作業時間」。非常時の緊急対応や不意の来客・電話対応のための時間です。

(例)
(休日勤務・1名)
・8時30分~翌8時30分 (拘束24時間)
・10時~10時30分:施設内巡回(30分)
・15時~15時30分:施設内巡回(30分)
・22時~22時30分:施設内巡回(30分)
・23時~翌5時30分:仮眠
・6時~6時30分:施設内巡回(30分)

・拘束時間=24時間、休憩時間=0 → 所定労働時間=拘束時間-休憩時間=24-0=24時間=A
・実作業時間=2時間=B
・手待ち時間=所定労働時間-実作業時間=24-2=22時間=C。
※1人勤務のため休憩時間は存在しない

・断続的労働では実作業時間を100%評価、手待ち時間を60%評価として賃金を計算します。
  言い換えれば、「実作業時間合計については賃金の100%を、手待ち時間合計については賃金の60%を支払う」ことになります。
  結局、「最低賃金で計算した日当=最低賃金×1.0××実作業時間数+最低賃金×0.6×手待ち時間数」です。


②減額できる率の上限となる数値の算出

〇減額できる上限(減額率)=(C×0.4)÷A
  %の小数点第二位以下は切り捨て。

ここでは「所定労働時間1時間あたり最低賃金をどれだけ減額できるのか」を計算しています。
「手待ち時間は60%評価」だから、「手待ち時間数に対しては最低賃金を40%減額」できます。
この減額分を所定労働時間数で割って「所定労働時間1時間あたり最低賃金をどれだけ減額できるか」を求めているのです。

・C×0.4=手待ち時間数×0.4=減額できる割合の合計
・(C×4)÷A=減額できる割合の合計÷所定労働時間数=所定労働時間1時間あたりどれだけ減額できるか=減額率
・「最低賃金で計算した日当= 最低賃金×(1-減額率)×所定労働時間数」となります。


『質問です!』

はいどうぞ。

最低賃金で計算した日当は「最低賃金×1.0××実作業時間数+最低賃金×0.6×手待ち時間数」で計算できます。
なぜ、わざわざ「所定労働時間1時間当たりの減額率を計算して、
「最低賃金×(1-減額率)×所定労働時間数」で求めなければならないのですか?

それは、深夜労働割増があるからです。
22時~翌5時までの労働に対しては25%増しの賃金が発生します。
最低賃金の減額許可は
「8時間を超える25%の残業割増については適用されますが、深夜労働の割増には適用されません。」
つまり、深夜労働時間については25%増しにしなければなりません。

もし、日当を「最低賃金×1.0××実作業時間数+最低賃金×0.6×手待ち時間数」で計算すると、
22時~翌5時までの実作業時間数と手待ち時間数を算出して25%増しをしなければなりません。
そうするとややこしくなるので、所定労働時間1時間当たりの減額率を出して、
日当を「最低賃金×(1-減額率)×所定労働時間数」で算出するようにしたのです。


『さらに質問です!』

どうぞ。

『「日当=最低賃金×(1-減額率)×所定労働時間数」には深夜労働の25%割増が入っていないのでは?』

その通り!
深夜労働割増を入れると次のようになります。

日当=最低賃金×(1-減額率)×(所定労働時間-深夜労働時間)+最低賃金×(1-減額率)×1.25×深夜労働時間
    =最低賃金×(1-減額率)×(所定労働時間+深夜労働時間×0.25)

これを上の例で具体的に計算してみましょう。

・8時30分~翌8時30分 → 拘束時間=24時間
・休憩時間=0
・A=所定労働時間=24時間
・B=実作業時間=2時間
・C=手待ち時間=所定労働時間-実作業時間=24-2=22時間
・深夜労働時間=10時~翌5時=7時間

〇減額できる上限(減額率)=(C×0.4)÷A=22時間×0.4÷24時間=0.36666…
  → %の小数点第三位以下は切り捨て → 36.66%
「所定労働時間1時間あたり、最低賃金を36.66%減額できる」ということになります。


③減額率の設定

この36.66%というのは減額できる最大の値です。
実際には「職務の内容,労働者の技能・経験など」を考慮して、その労働者について減額率を決めます。
当然、36.66%より低くなります。

しかし、これは雇用者の判断です。
最低賃金の減額許可申請では「減額できる最大の減額率」で申請しても問題はありません。
通常はここでも「減額できる上限の減額率」になります。


④支払おうとする賃金の額の設定

「支払おうとする賃金の額」とは「支払おうとする時間給」のことです。

「支払おうとする時間給=最低賃金×(1-③の減額率)」

「③の減額率=②の減額率の上限」としたので、
「支払おうとする賃金の額=最低賃金×(1-②減額率の上限」

上例の「減額率の上限=36.66%」なら
「支払おうとする賃金の額=最低賃金×(1-0.3666)」ですが、
なぜか「%の小数点第二位以下切り捨て」で
支払おうとする賃金の額=最低賃金×(1-0.366)

三重県の最低賃金902円で計算すると、
支払おうとする賃金の額=902円×(1-0.366)=571.868円
ここで、1円未満の端数は切り上げ(★注意) → 支払おうとする賃金の額=572円

★注意
パンフレットで「1円未満の端数は切り捨て」としているのは「最低賃金からの減額高」についてのことです。
減額率=36.6%なら「最低賃金から減額できる額=902円×0.366=330.132円」
この1円未満の端数を切り下げ、330.132円 → 330円 にするということです。
つまり、「支払おうとする賃金の額=902円-330円=572円」となります。
結局、「支払おうとする賃金の額=902円×(1-0.366)=571.868円」で、1円未満の端数は切り上げるのと同じになります。


〇支払おうとする日当

これは最低賃金の減額許可申請には記載しません。
記載するのは次のものだけ。
・適用される最低賃金 → 三重県最低賃金902円
・減額率 → 36.6%
・支払おうとする賃金 → 572円

しかし、求人条件や雇用条件通知書には日当を示さなければなりません。
日当は、深夜割増を含めて計算します。
日当=支払おうとする賃金×(所定労働時間数+深夜労働時間×0.25)
    =572円×(24時間+7×0.25)=14729円 となります。


b.最低賃金減額許可の公式

「何が何やら分からなくなっている」と思いますので、ここで公式を上げておきます。

・減額率の上限(%)=(手待ち時間数×0.4)÷所定労働時間数×100 
 ※%の小数点第三位以下切り捨て

・減額した時間給=支払おうとする賃金(円)=最低賃金×(1-減額率)
 ※ここでの減額率は%の小数点第二位以下切り捨て。
 ※1円未満の端数は切り上げ。

・支払うべき日当=減額した時間給×(所定労働時間数+深夜労働時間数×0.25)
 ※1円未満の端数は切り上げ。


c.練習問題

(平日勤務・1名)
・17時~翌8時30分 ( 拘束15.5時間 )
・17時30分~18時30分:閉館施錠業務
・22時~22時30分:施設内巡回
・23時~翌5時30分:仮眠
・6時~6時30分:施設内巡回
・7時30分~8時:開館・開錠業務
・拘束時間=15.5時間、休憩時間=0、所定労働時間=15.5時間、実労働時間=2.5時間,手待ち時間=13時間。

・減額率の上限(%)=(手待ち時間数×0.4)÷所定労働時間数×100=(13×0.4)÷15.5=33.5483…≒33.54%
 ※%の小数点第三位以下切り捨て
・減額した時間給=最低賃金×(1-減額率)=902円×(1-0.335)=599.83≒600円
 ※ここでの減額率は%の小数点第二位以下切り捨て
 ※1円未満の端数は切り上げ
・支払うべき日当=減額した時間給×(所定労働時間数+深夜労働時間数×0.25)=600×(15.5+7×0.25)=10350円

     

5.最低賃金の減額にも許可が必要



a.最低賃金の減額の許可

警備員の宿直日直業務が断続的労働として労基法の適用除外の許可が与えられても、それだけでは最低賃金を減額することはできません。

「監視又は断続的労働に従事する者に対する適用除外許可」は労基法の労働時間・休憩・休日の規定を除外するだけです。
・その勤務が労基法の労働時間・休憩・休日の規定に反しても労基法違反にならないというだけです。
・最低賃金法の適用は除外されません。

・最低賃金法の適用を除外して賃金を減額するには、さらに「最低賃金の減額の特例許可申請」をしなければなりません。
・電子申請については見当たりません。申請書は→→→こちら


・ちなみに、
 上の24勤務(所定労働時間=24時間、実作業時間=2時間、手待ち時間=22時間) を減額なしで計算すると、
  ①.8時30分~16時30分の8時間が通常労働→8時間分
  ②.16時30分~22時の5.5時間が時間外労働で25%増し→5.5×1.25=6.875時間分
  ③.22時~5時の7時間は時間外労働で深夜労働→25%増しの25%増し→7×1.25×1.25=10.9375時間分
  ④.5時~8時30分の3.5時間は時間外労働で25%増し→3.5×1.25=4.375時間分
・①+②+③+④=30.1875時間分

・三重県の最低賃金902円で計算すると902円×30.1875≒27230円。
  最低賃金減額の許可がなければこれだけの額を支払わなければなりません。
  もちろん、その警備員が請求した場合ですが…。


b.減額率は上限、申請するのは許可


「4」 で算出した減額率や減額は上限です。

労働局のバンフレットでは、
「これを上限として、減額対象労働者の職務の内容,職務の成果,労働能力,経験などを総合的に勘案して、減額率を定めてください」とされています。

許可ですから「認めるかどうかは労働局の裁量」です。

『もう少し高くしないと許可しないよ。』と言われたらそれに従うしかないでしょう。


次の記事も読んでください。

●断続的労働の適用除外許可・最低賃金の減額許可申請の実際
●断続的労働の適用除外許可,最低賃金減額許可の効力発生時期
●津市公契約条例は責任逃れ、「最低落札価格なし」で違法労働状態
津市公契約条例は責任逃れ2- 予定価格では違法労働



つづく



前へ/バット型・警棒型伸縮ライト   次へ/.公契約条例の実効性とその本音   開業偏目次へ   警備総索引   SPnet2.TOP   SPnet   SPnet番外