時計・自動巻き 資料



・2012.10.01. TRESSA・LUX の歩度調整 と 測定姿勢の選別





今回の歩度調整は「イラン紛争」で行き場を失い大量に出回ったアラブ向け時計です。
スイスメイドのTRESSA・LUX 27・crystal と TRESSA・LUX 25・crystal。
歩度調整も五回目。今回は測定姿勢を選別して三姿勢としました。
初心者が歩度調整するのなら「文字盤下」,「12時下」,「3時下」の三姿勢で必要充分です。
調整のコツや留意点は初めて歩度調整をする方の参考になると思います。


測定姿勢の選別-文字盤下,12時下,3時下の三種類
スターグラフでの三姿勢
イラン紛争の犠牲者 TRESSA・LUX 27・crystal
LUX 27 の調整前と調整後の歩度グラフ
調整のコツ
TRESSA・LUX 25・crystal
LUX25 の調整前と調整後の歩度グラフ
調整で気付いたこと
LUX 25 調整後の歩度比較
LUX 25 第二回調整後の歩度グラフ


    
1.測定姿勢の選別


びぶ朗 と スターグラフ の取扱にも馴れてきました。

・「各姿勢のすべてについて理想的なグラフを出せない」ことも分かりました。

・「緩急針による調整は、各姿勢の傾向全体をプラスかマイナスに平行移動するだけ」ということに気がつきました。

・そして、「歩度グラフは 緩急針の調整で、どれくらい平行移動できたのかを知るためのもの」であり、
  「二回目の調整からは、どれか一つの姿勢のグラフを使えばよい」ことを知りました。

いろいろやってみて、一つ一つを理解していくのです。

無駄な回り道もありますが、それはそれで楽しいものです。

今回の調整に入る前に、もう一度測定姿勢について確認します。


a.六姿勢の測定は必要か



前回、測定姿勢は 水平方向が 「①.文字盤上」、「 ②.文字盤下」、
垂直方向が 「③.12時下」,「④.6時下」,「⑤.3時下」,「⑥.9時下」,の合計六姿勢だということを書きました。→→→こちら

この六姿勢の測定は「その時計の姿勢差による進み遅れの特徴を知るための参考」になります。
これは「調整前と第一回の調整後」では必要なものと考えていました。

しかし、その時計の姿勢差による歩度特性を知るためなら同じような姿勢での測定は不要です。
特性・特徴・傾向を知るのに、歩度グラフの細かな傾きや数値は必要ないからです。

だから、測定姿勢は次の三種類になります。
・①.水平(文字盤上), ②.水平(文字盤下) のどちらか。
・③.12時下, ④.6時下 のどちらか。
・⑤.3時下,⑥.9時下 のどちらか。


b.「文字盤上」と「文字盤下」では「文字盤下」


腕時計を装着して文字盤が下になることはあまりありません。
文字盤下の場合は、寝ころんだときに両手を頭の下に入れる、顔を洗う、賞状を受け取る‥。

日常生活のほとんどの場面では文字盤が上になっています。
そう考えれば、水平方向は 実際使用に近い文字盤上 がよいような気がします。

しかし、調整は時計の裏蓋を開けて文字盤下で行います。
調整はグラフを見ながら何回もやりなおします。

いちいち裏蓋をセットして文字盤上で測定することは面倒です。

調整作業を優先するなら文字盤下が適しています。

平置きでの測定値と比較する場合は文字盤下で平置きすれば済みます。

以上から、文字盤下が適しています。

文字盤上はラウンドガラスでピックアップに設置するのが不安定な場合や、
ケース形状によりパルス検知棒への接触がうまくいかない場合になります。


c.「12時下」と「6時下」では「12時下」


腕時計を付けていて 6時下 になることがあるでしょうか?

時刻を見るために手首をひねる場合も「文字盤上」 までで、さらに手首をひねって「6時下」になることはありません。
警棒を側頭部に構える場合は「6時下」になりますが、腕時計は右手につけていません。

腕時計が 6時下になるのは、
顔写真を撮られまいと左手でカメラのレンズをふさぐ場合。
相手の右上段突きを左腕で「上げ受け」する場合。
警察官にピストルを突きつけられて、両手を頭の後で組まされる場合。
どれも特殊な場合です。

「12時下」で決まりです。


d.「3時下」と「9時下」では「3時下」


キオツケが「3時下」、バンザイが「9時下」です。

歩く場合が「3時下」、ほおづえ や 『 絶体絶命だ‥。』と両手で顔を覆う場合が「9時下」です。

人生の幸不幸にもよりますが、「3時下」を選んだ方が無難でしょう。

また、パルスはリューズ位置(3時位置 )をパルス検知棒に当てる方が検知しやすいようです。
二本の棒の間にリューズが挟まって、時計が動きにくくなるからです。

スターグラフの場合、 リューズ位置を検知棒に当てると、時計を装着したまま「9時下」にすることはできません。

これらから「3時下」に決まりです。
     

d.スターグラフでの三姿勢


スターグラフを使う場合は次の三姿勢になります。

①.リューズ接触で「文字盤下」 ②.向こうへ倒して「12時下」 ③.左に倒して「3時下」
・基本姿勢です。 ・パルス検知棒とケースの接触不良に注意。
・時計の重さで検知棒との接触はよいが
  時計の浮き上がりに注意。

ガラス形状が平坦でないような「例外的」な場合は次の三姿勢。

①.リューズ接触「文字盤上」 ②.手前に倒して「12時下」 ③.左に倒して「3時下」

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2.TRESSA・LUX 27・crystal


イラン紛争の犠牲者、 TRESSA です。

・TRESSA・LUX 27・crystal

・27石ではありません。21石です。
・手巻き可、ハックなし。
・4時位置プッシュボタンで日付早送り。
・リューズ一段引きで曜日早送り。
・曜日は三カ国語表示。英語表示のSUNは赤字ではありません。
  サービス系の仕事では日曜日は休日ではありません。

・アラブ圏用に作られたキンキラキン・デザインです。
・イラン紛争で行き場を失い、一時期大量に放出されました。


 ・裏蓋デザインも派手です。


・ムーブメントは SWISS・MADE の6振動。(刻印 / 5206-2) 
・前回の RADO のように “ あおり調整 ” はできません。
  もしできても、調整する技術がありません。
・「手巻き24回半」でフル巻き上げ。

・文字盤上の平置きで 「+32 秒 / 日 」 です。
・この TRESSA はワインディングマシーンの好き嫌いが激しく、
  ワインディングマシーンの中でときどき眠ってしまいます。
  回転スピードの速いワインディングマシーンでも眠ってしまいます。
・揺すって目覚めさせると平置で一日以上動いています。
  しかし、歩度は 「 +82秒/日 」 と大きく進みます。
・どこかに不具合があるのかも知れません。

・一応、このまま歩度調整をします。


    

3.TRESSA LUX27 の調整


a. 調整前と調整後のグラフ

TRESSA LUX27  ①.文字盤下(3時接触)
調整前 第一回調整後
・グラフをもっと下げることはできるが、そうすると他の二姿勢でマイナスになる。
・ここからどれだけマイナスにするかは、三姿勢WMに装着測定後に決める。
・この時計はWMとの相性が悪いので、WMでダメなら平置測定する。


TRESSA LUX27   ②.12時下(文字盤下・3時接触)
調整前 第一回調整後
・文字盤下よりも 35 秒 / 日 くらい遅れる。
・グラフの乱れが気になるが、片振りはグラフを見なければ気にならない。


TRESSA LUX27   ③.3時下(文字盤下・3時接触)
調整前 第一回調整後
・片振りがなくなり一直線になるのは偶然性が支配する。
・これから先、今よりよい相手が現れるという保証はない。
・ある程度のところで手を打つしかない。
・目的はグラフではなく、実際使用での精度。


    

b.調整作業で気づいたこと・調整のコツ


①.「ヒゲ持ち」と「緩急針」の関係

ヒゲ持ちを動かすと緩急針も一緒に動くが、緩急針を動かしてもヒゲ持ちが動くことは少ない。
特に、緩急針を少し動かす場合はヒゲ持ちが動くことはない。
構造上、そうなっているのでしょう。

調整の順番は、片振り調整 ( ヒゲ持ち移動 ) → 歩度調整 ( 緩急針移動 )なので、その順番でやれば上手くいくことになる。


と言うことは、調整前に片振りがなかったのだから、ヒゲ持ちを動かさないで緩急針だけ動かせば良かったのか!

それは分かっていたのですが、緩急針が勢い良く動いてしまったのでヒゲ持ちも一緒に動いてしまったのです。

緩急針を少しずつ動かしていたら、ヒゲ持ちが動くことはなく、調整前の一本線のままグラフの傾きを下げることができたのです。

また一つ覚えました。


②.道具

いままでは、目打ちの先を曲げたものを道具にしていました。
しかし、真っ直ぐな目打ちの方が動かしやすいようです。

右手で目打ちをヒゲ持ちや緩急針に当て、目打ちの先に左手の指を当てて動かすのが良いようです。


③.動かす量と加える力

ヒゲ持ちや緩急針を「動かす」というより、「押さえる」・「力を伝える」 という感じでやるのが良いようです。
グラフに結果が現れなくても、何度も繰り返していればだんだん結果が現れてきます。

「進み過ぎ → 戻す → 戻し過ぎ → 進める → 進み過ぎ → 戻す」 を繰り返していると、偶然にピッタリとなる場合があります。
しかし、偶然を期待するより、目に見えない前進を繰り返した方が確実です。


c. 歩度比較

品名 TRESSA ・ LUX 27 ・ crystal
調整前後 調整前 第一回調整後 第二回調整後
方法 文字盤上平置 三姿勢WM 室内装着 文字盤下平置 三姿勢WM 室内装着 文字盤下平置 三姿勢WM 日常使用
実測値 +32秒/日 × ×  未 未  未 
換算値/日 +32秒/日 × ×   未   未

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4.もう一つの TRESSA 。LUX 25

・同じくイラン紛争の犠牲者です。
・TRESSA・LUX 25・crystal です。
・これも25石ではなく 21石です。
手巻き可、ハックなし,三カ国語表示,SUN黒字は LUX 27と同じです。
・違うのは、日付曜日早送り。一般的な リューズ1段引き回しです。

  ※ケース : 縦×横=38.8×36.5㎜、風防 29.7㎜Φ、重さ : 60g(皮ベルト含む)
  ※ブレス取付巾 : 18㎜、ムーブメント刻印 :SWISS ・ 6206-1
  ※文字盤に 「 T-SWISS   MADE-T 」 印字:リューズにトレッサマーク
  ※裏蓋刻印 : TA 304000N
  ※風防 : プラスチック製・表面平坦
  ※1時6分角に2㎜長の打ち傷、この延長上の1時8分位置に1㎜ 長の打ち傷。
    他の傷は光にかざしても見つけられない。
  ※ケース表面 : 点傷・線傷多いが目立つものなし。
  ※ケース裏面 : TRESSAマーク擦り切れ薄くなっている。
    点傷・線傷多いが目立つものなし。開閉傷あるが大きなものではない。


・裏蓋がすり減っています。
・まさか
  「アラブの~ 偉い お坊さんが~ ♪」使っていたものではないでしょう。
  ※これが分かる人は安保闘争を経験しています。

・文字盤上平置きで 「+27 秒 / 日 」
・平穏な日常使用で 「+27 秒 / 日 」。
・「平置歩度 = 日常使用歩度」という不思議な測定結果です。
  私の仕事のキツさが分かるでしょうか?

・LUX 27 と違って、ワインディングマシーンで眠ってしまうことはありません。
  ただ、高速回転のワインディングマシーンでは「+79 秒 / 日」となります。
高速回転・高トルク回転のワインディングマシーンは時計に悪いようです。
  繊細な心の持主はダメになっていくのです。

・ムーブメントは LUX 27 と同じなので写真は省略。


   
 
5.LUX 25 の第一回調整


a.調整前と調整後のグラフ

TRESSA・LUX 25  ①.文字盤下(9時接触)
調整前 第一回調整後
・3時位置接触では直線にならない。パルス検知棒との接触が微妙にずれるのでしょう。
・三姿勢のうち一番グラフが乱れる。
・歩度は +35 秒 / 日前後。三姿勢のうち一番進む。
・だいたい +15 秒 ~ 25 秒 / 日 で:+20 秒 / 日 前後が一番多い。
・調整前より マイナス 10 秒 ~ 15 秒 となる。


TRESSA・LUX 25  ②.12時下(文字盤下・9時接触)
調整前 第一回調整後
・グラフはきれいに出る。
・歩度は +20 秒 ~ 25 秒 / 日。
・歩度は三姿勢の中で真ん中だが、9時下 に近い。
・文字盤下 ・ 12時下 ・ 9時下 は 大 ・ 小+α ・ 小  になっている。
・だいたい+5 秒 ~ 10 秒 / 日 。
・ここでも、調整前より マイナス 10 秒 ~ 15 秒程度。


TRESSA・LUX 25  ③.9時下(文字盤下・9時接触)
調整前 第一回調整後
・グラフを出すのが一番楽な姿勢。
・歩度は +20 秒 / 日 前後。三姿勢の中で一番遅れる。
・やはりこの姿勢が一番きれいなグラフが出る。
・調整前より マイナス 15 秒 は十分にクリアーしている。


     

b. 調整作業


イ.調整前の方針

・片振りがないから、ヒゲ持ちを触る必要はない。
・前回の失敗「緩急針を大きく動かしたら、ヒゲ持ち が一緒に動いてしまった」に注意。
・緩急針は「動かすのではなく、力を伝える」、「グラフに変化が出ない程度を繰り返す」。

・目標は +27 秒 / 日 を +10 秒 /日。 マイナス 15 秒 ~ 20 秒。
・調整による変化を見るのは、文字盤下が一番作業がしやすいがグラフが出にくいので使えない。
・三姿勢ともプラスにしなければならないので、一番進みの少ない 9時下のグラフを使う。
・9時下 で +20 秒 / 日 前後だから、9時下のグラフを水平か水平より少しだけ上げればよい。


ロ.調整で気づいたこと


・緩急針は「押す」のではない。 緩急針の「側面を なぞる」。
・目打ちの先で、緩急針の側面を「なぞる・なでる」。
・調整後のグラフは 三姿勢とも調整前よりも マイナス15秒 と同じである。進みの大きい 文字盤下 が 大きくマイナスになるのではない。
  これは、「 緩急針による調整が三姿勢の歩度全体を平行移動するもの」 ということを示している。
   ★★17     
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c.LUX 25 歩度比較(2012.10.14)

※12時間=720分、24時間=1440分
※換算歩度は少数第二位四捨五入

時計名称 TRESSA ・ LUX 25 ・ crystal
調整前後 調整前 第一回調整後
計測状態 文字盤上平置 三姿勢WM 室内装着 三姿勢WM/ 15分稼動・30分停止
計測日時 10/2.21:30 10/3.9:40 10/3.10:00 10/3.21:30 10/4.22:00 10/5.7:00 10/5.22:00 10/7.11:00
開始方法 フル巻き上げ そのまま そのまま そのまま そのまま そのまま
計測値/秒 +2set +2 ±0set ±0 -1 ±0 +2
計測歩度 +27秒/日 +27秒/日 ±0秒/730分 ±0秒/690分 -1秒/750分 +1秒/540分 +2秒/900分 停止
換算歩度1 +27秒/日 +27秒/日 ±0秒/日 ±0秒/日 -1.9秒/日 +2.7秒/日 +3.2秒/日
換算歩度1 ±0秒/日      +3秒/日      フル巻より4.5日


時計名称 TRESSA ・ LUX 25 ・ crystal
調整前後 第一回調整後
計測状態 室内装着
計測日時 10/8.9:00 10/8.22:00 10/9.10:00.
開始方法 20回巻き そのまま
計測値・秒 +5set +9 +13
計測歩度 +4秒/780分 +4秒/720分
換算歩度1 +7.4秒/日 +8秒/日
換算歩度1 +7.7秒/日      

※第一回調整後の歩度 → 三姿勢WM / -2秒 ~ +3秒 / 、室内装着 / +8秒 / 日

    
d.日を改めて測定したグラフとの比較(2012.10.14)


第一回調整から何ら変更はありません。
Yshooオークションに出品するために、再度計測してみました。

TRESSA・LUX 25  水平・文字盤下(9時接触)
文字盤下 ( 9時位置接触 ) 文字盤下 ( 3時位置接触 )


TRESSA・LUX 25  垂直1
12時下 ( 9時位置接触 ・ 文字盤下 ) 12時下 ( 3時位置接触 ・ 文字盤下 )


TRESSA・LUX 25  垂直2
9時下 ( 9時位置接触 ・ 文字盤下 ) 3時下 ( 3時位置接触 ・ 文字盤下 )

( 考察 )

・今回は、前回グラフがきれいに出なかった 「 3時位置接触 」 で測定しようと苦労しました。
・前回は、パルスを少しでも拾おうと 検知棒に強く押しつけていましたが、これが逆効果となっていたようです。
・前回と今回の違いは、 ( 前回 ) フル巻き上げ ・ 9時位置接触   ( 今回 ) ハーフ巻き上げ ・ 3時位置接触 。
・水平姿勢と垂直姿勢の違い ( 水平姿勢>垂直姿勢 ) は同じですが、各グラフ同士は違っています。
・これが、9時位置接触と3時位置接触の違いでしょうか?
・歩度グラフは歩度を示すものではなく、「 何秒進ませるか ・ 遅らせるか 」 の道具に過ぎないことを実感しました。


つづく。




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